「ローランジをしているのに、股関節の前側が伸びている感じがしない」
「股関節を伸ばそうとすると、腰が反ってしまう」
「ランニング後に腸腰筋を伸ばしているつもりなのに、腰や太ももの前ばかり張る」
ランナーの方から、こういう相談を受けることがあります。
ローランジは、ランナーにとってとても相性のいいアーサナーです。股関節の前側、特に腸腰筋や大腿直筋を伸ばしやすく、走る動きに必要な「脚を後ろへ伸ばす感覚」を取り戻す練習になります。
でも、見た目はローランジになっていても、本当に股関節が伸びているとは限りません。
股関節を伸ばしているつもりが、腰を反らせていたり、骨盤が前に倒れすぎていたり、前脚に体重を預けすぎていたりすることがあります。
その状態で無理にポーズを深めると、股関節が伸びるどころか、腰痛や膝の違和感につながることもあります。本来伸ばしたい場所ではなく、負担をかけたくない場所にストレスが集まってしまうのです。
今回は、理学療法士の視点から、ローランジで股関節が伸びない理由と、ランナーが意識したい修正ポイントを解説します。
ローランジはランナーに何をしてくれるポーズなのか
ローランジは、片脚を前に出し、反対の脚を後ろへ引いて、股関節の前側を伸ばすポーズです。
ランナーにとって大切なのは、後ろ脚の股関節がしっかり伸びることです。
走る動作では、脚を前に振り出すだけでなく、身体の後ろへ脚を残す動きが必要です。この動きが出ることで、股関節を使った推進力が生まれます。
ところが、股関節の前側が硬くなると、脚が後ろへ伸びにくくなります。その結果、腰を反らせて脚を後ろへ出しているように見せたり、ストライドが小さくなったり、太ももの前ばかり使う走り方になりやすくなります。
ローランジは、この股関節の伸展、つまり「脚を後ろへ伸ばす動き」を確認するのにとても役立ちます。
ただし、ここで大切なのは、ポーズを深くすることではありません。
腰を反らせずに、骨盤を安定させたまま、股関節の前側に伸びを感じられるか。
ランナーにとってのローランジは、柔軟性を競うポーズではなく、走るための股関節の使い方を確認するポーズです。
股関節が伸びない理由1:腰を反らせて代償している
ローランジで最も多いのが、股関節ではなく腰を反らせているパターンです。
後ろ脚の股関節を伸ばそうとしたとき、股関節の前側が硬いと、身体は別の場所で動きを作ろうとします。その代表が腰です。
本来は股関節が後ろへ伸びてほしいのに、腰椎が反ることで「伸びているような形」になってしまいます。
この状態では、股関節の前側にはあまり伸びを感じません。代わりに、腰が詰まる感じ、腰の反りが強くなる感じ、前ももが張る感じが出やすくなります。
ランニングでも同じことが起こります。
股関節が後ろへ伸びない人は、走っているときに腰を反らせて脚を後ろへ出そうとします。その結果、腰椎に負担がかかり、走った後に腰が張る、長距離になると腰が痛くなる、といった症状につながることがあります。
ローランジで腰が反る人は、走っているときにも腰で代償している可能性があります。
股関節が伸びない理由2:骨盤が前に倒れすぎている
股関節の伸びを感じにくい人は、骨盤の位置にも注目してみてください。
後ろ脚を引いたときに、骨盤が前に倒れすぎると、腰が反りやすくなります。いわゆる反り腰の姿勢です。
骨盤が前に倒れたままローランジをすると、後ろ脚の股関節は伸びているように見えますが、実際には腰椎の反りで形を作っていることがあります。
このときに関係するのが腹圧です。腹圧がうまく入っていないと、お腹が前にぽっこり出て、骨盤が前に倒れ、反り腰で代償しやすくなります。
必要なのは、骨盤を少し起こしながら、下腹部を薄く保つように腹圧をかける意識です。
専門的には、骨盤を軽く後傾させる方向に動かします。難しく考えなくても大丈夫です。おへそを少し引き上げる、恥骨を前に向けすぎない、お尻の穴を床のほうへ向けるような感覚で十分です。
骨盤が整うと、腰の反りが減り、股関節の前側に伸びを感じやすくなります。
ランナーの場合、この骨盤の位置はとても重要です。
骨盤が前に倒れすぎたまま走ると、腰が反りやすくなり、太ももの前側に力が入りやすくなります。お尻やハムストリングスが使いにくくなり、効率の悪い走り方になりやすいです。
股関節が伸びない理由3:前脚に体重を預けすぎている
ローランジでは、前脚に体重を乗せること自体は悪いことではありません。
ただ、前脚へ体重を預けすぎると、後ろ脚の股関節を丁寧に伸ばす感覚が薄くなります。
前脚の膝に体重が乗りすぎると、前ももや膝まわりに力が入りやすくなります。後ろ脚はただ後ろに置いているだけになり、股関節の前側が伸びているのかどうかが分かりにくくなります。
このときは、前脚の太ももとお腹を少し引き離すようなイメージを持つと、前脚に乗りすぎず、骨盤と体幹の位置を保ちやすくなります。
また、前脚の膝が内側に入る人も注意が必要です。
膝が内側に入ると、股関節、膝、足部の向きが崩れます。この状態でポーズを深めると、膝の内側や外側に負担がかかることがあります。
ローランジでは、前脚の膝がつま先と同じ方向を向いているかを確認しましょう。
前脚で支えすぎるのではなく、後ろ脚の付け根が伸びているか、骨盤が左右に傾いていないか、腰が反っていないかを感じることが大切です。
股関節が伸びない理由4:腸腰筋だけでなく大腿直筋も硬い
股関節の前側が硬いというと、腸腰筋をイメージする人が多いと思います。
もちろん腸腰筋は大切です。腸腰筋は腰椎や骨盤から太ももの骨につながる筋肉で、股関節を曲げる働きがあります。長時間座る姿勢や、ランニングで太ももを引き上げる動作が続くと、硬くなりやすい筋肉です。
ただし、ランナーの場合は大腿直筋も見落とせません。
大腿直筋は太ももの前側にある筋肉で、股関節を曲げる働きと、膝を伸ばす働きの両方を持っています。つまり、股関節と膝の両方をまたぐ筋肉です。
ローランジで後ろ脚の膝を床につけたとき、太ももの前側が強く張る人は、大腿直筋の硬さが関係しているかもしれません。
腸腰筋が硬い人は、股関節の付け根の奥に伸びを感じやすいです。一方、大腿直筋が硬い人は、太ももの前側に強い張りを感じやすくなります。
どちらが悪いという話ではありません。
大切なのは、自分がどこに伸びを感じているかを観察することです。股関節の奥なのか、太ももの前なのか、腰なのか。感じる場所によって、身体の使い方のクセが見えてきます。
ローランジで確認したいセルフチェック
ローランジを行うときは、次のポイントを確認してみてください。
- 腰が反りすぎていないか
- おへそが前に落ちていないか
- 前脚の膝がつま先と同じ方向を向いているか
- 後ろ脚の股関節の前側に伸びを感じるか
- 伸びている場所が腰ではなく股関節まわりか
- 呼吸を止めずにポーズを保てるか
この中で特に大切なのは、腰の反りと呼吸です。
腰が反っていると、股関節ではなく腰でポーズを作ってしまいます。そして、呼吸が止まっていると、体幹が必要以上に固まり、股関節の動きも感じにくくなります。
ローランジは、深く沈み込むことが目的ではありません。
浅い位置でもいいので、腰を反らせず、呼吸をしながら、股関節の前側にじんわり伸びを感じられるかを大切にしてください。
ランナー向けローランジのやり方
ここでは、ランナーが股関節を感じやすいローランジのやり方を紹介します。
- 片膝立ちになります。前脚は膝の下に足首が来る位置に置きます。
- 後ろ脚の膝は床につけ、足の甲を寝かせます。
- 骨盤を正面に向け、左右に傾かないようにします。
- おへそを軽く引き上げ、腰の反りを少し減らします。
- そのまま身体を少し前へ移動し、後ろ脚の股関節の前側に伸びを感じます。
- 呼吸を止めずに、20〜30秒キープします。
ポイントは、先に骨盤を整えてから前に移動することです。
いきなり深く沈み込むと、腰が反りやすくなります。まず骨盤を起こし、腰の反りを減らし、その状態を保ったまま少しだけ前に進みます。
伸び感が弱くても、腰が反らずに股関節の前側へ伸びを感じられていれば十分です。
さらに伸ばしたい人は、後ろ脚の膝を曲げる
ローランジに慣れてきたら、後ろ脚の膝を曲げるバリエーションもあります。
後ろ脚の膝を曲げると、大腿直筋がより伸びやすくなります。太ももの前側が硬いランナーには有効です。
ただし、このバリエーションは腰が反りやすくなります。
後ろ足を手で持とうとして、胸を張りすぎたり、腰を反らせたりすると、股関節ではなく腰に負担がかかります。
まずは通常のローランジで、腰を反らせずに股関節の前側を感じられることが先です。そのうえで余裕があれば、後ろ脚の膝を曲げるバリエーションに進みましょう。
膝に痛みがある人は、無理に行わないでください。膝の下にタオルやクッションを敷くのもおすすめです。
ローランジを行うときにあると便利なアイテム
ローランジでは、後ろ脚の膝を床につけるため、床が硬いと膝の痛みが気になって股関節の伸びに集中しにくくなります。
膝が当たって痛い人は、少し厚みのあるヨガマットや、クッション性のあるミニマットを使うと、姿勢を落ち着いて確認しやすくなります。また、自分の腰の反りや膝の向きを確認したい場合は、全身が映る鏡があるとセルフチェックに役立ちます。
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走る前と走った後で、ローランジの使い方は変わる
ローランジは、走る前にも走った後にも使えます。
ただし、目的は少し違います。
走る前に行う場合は、長く静止しすぎず、軽く呼吸をしながら股関節を動かすように行います。目的は、股関節の動きを出し、骨盤の位置を確認することです。
走った後に行う場合は、少し長めにキープして、股関節の前側や太ももの前側の緊張をゆるめます。目的は、使いすぎた筋肉を落ち着かせ、腰や骨盤まわりの負担を抜くことです。
走る前は「動きを出す」。走った後は「緊張を抜く」。
同じローランジでも、目的を変えると使い方が変わります。
痛みが出る場合は、深めるより戻る
ローランジで股関節の前側に心地よい伸びを感じるのは問題ありません。
でも、腰が詰まる、前の股関節が詰まる、膝が痛い、後ろの股関節の前側に鋭い痛みが出る場合は注意が必要です。
その場合、ポーズを深めるのではなく、一度戻りましょう。
前脚と後ろ脚の幅を少し狭くする。骨盤を起こす。膝の下にクッションを敷く。上半身を起こしすぎない。こうした調整だけで、痛みが軽くなることがあります。
ヨガは、痛みを我慢して行うものではありません。
特にランナーは、普段から頑張ることに慣れている人が多いです。だからこそ、「効いている痛み」と「負担になっている痛み」を分けて考える必要があります。
股関節が伸びないからといって、力で押し込む必要はありません。
身体が逃げている方向に気づき、少しずつ本来動かしたい場所へ戻していくことが大切です。
ランナーのためのヨガ解剖学シリーズ
このシリーズでは、ランナーに役立つヨガのポーズを、理学療法士の視点から体の使い方・怪我予防・セルフチェックに分けて解説しています。
- 第1回:ランナーにヨガが必要な理由
- 第2回:ローランジで股関節が伸びない理由(この記事)
- 第3回:ダウンドッグで腰が丸くなる原因
まとめ:ローランジは股関節と腰の使い分けを教えてくれる
ローランジで股関節が伸びない理由は、単に身体が硬いからだけではありません。
腰を反らせて代償している。骨盤が前に倒れすぎている。前脚に体重を預けすぎている。腸腰筋だけでなく大腿直筋も硬い。
こうした要素が重なると、ローランジをしていても股関節の前側に伸びを感じにくくなります。
ランナーにとって大切なのは、見た目の深いローランジではありません。
腰を反らせずに、骨盤を安定させたまま、股関節を後ろへ伸ばせることです。
この感覚は、ランニングフォームにもつながります。股関節が使えるようになると、腰で頑張る走り方から、骨盤と脚が連動した走り方に変わりやすくなります。
ローランジは、ただのストレッチではありません。
自分の股関節と腰の使い分けを知るための、ランナーにとって大切な身体の点検時間です。
次回は、ダウンドッグで腰が丸くなる人の原因について、ランナーの身体の特徴と合わせて解説していきます。


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