「鳩のポーズで、片方のお尻が浮いてしまう」
「前脚の膝が痛くて、ポーズを続けられない」
「すねをマットと平行にしようとすると、体が大きく傾く」
鳩のポーズを見ると、前脚のすねを横へ向け、骨盤を正面へそろえる形が正解に見えるかもしれません。
でも、股関節の動く範囲や骨盤の形には個人差があります。見本と同じ角度を目指して前脚を無理に開くと、股関節で受け止めきれない力が膝へ伝わりやすくなります。
大切なのは、すねの角度でも、お尻を床につけることでもありません。前脚の膝に痛みがなく、骨盤を支えた状態で呼吸を続けられる位置を選ぶことです。
第8回は、鳩のポーズ(エーカ・パーダ・ラージャカポターサナの準備姿勢)を、前脚の股関節、膝、骨盤、後ろ脚のつながりから見ていきます。

鳩のポーズで確認できるのは「柔らかさ」だけではない
鳩のポーズでは、前脚と後ろ脚で異なる動きが必要です。
- 前脚側の股関節を曲げ、外側へ開き、外旋させる
- 後ろ脚側の股関節を伸ばす
- 左右の坐骨へかかる重さを骨盤で調整する
- 腰を反りすぎず、上半身を支える
- 力みすぎず、呼吸を続ける
ランニングは前後方向の動きが中心です。2023年に高度にトレーニングしたマウンテンランナー30人と、活動的な非ランナー32人を比べた研究では、ランナー群で股関節外旋の可動域と、股関節外旋筋・伸展筋の筋力が小さいという結果でした。ただし横断研究のため、ランニングが原因だと断定はできません。
鳩のポーズは、このような股関節の左右差や骨盤の支え方を、ゆっくり観察する一つの方法です。ポーズが深くできれば、走りが速くなるわけではありません。
原因1:前脚のすねをマットと平行にしようとしている
前脚のすねを体に対して直角に近づけるほど、前脚側の股関節には大きな外旋が必要です。
股関節でその角度をつくりにくい人が、かかとだけを前へ押し出すと、膝がねじれたように感じたり、膝の内側や外側に痛みが出たりすることがあります。
かかとは、無理に前へ出さなくてかまいません。まずは前脚のかかとを鼠径部へ近づけ、膝に痛みがない角度を選びます。
すねの角度は、柔軟性の点数ではありません。膝を守りながら股関節で動ける範囲を探すための調整部分です。
原因2:浮いたお尻を無理に床へ押し下げている
前脚側の股関節が床へ近づかないとき、体重をかけてお尻を押し下げたくなります。しかし、骨盤が大きく傾いたまま深く沈むと、前脚の膝や股関節、腰のどこかで動きを補いやすくなります。
浮いているお尻の下に、ヨガブロック、クッション、折りたたんだ毛布を置きます。床へ届かない部分を埋めると、骨盤を支えたまま上半身を起こしやすくなります。
左右の骨盤を完全に同じ高さにする必要はありません。支えを使い、体が強く傾かずに3呼吸できる位置を探します。

原因3:後ろ脚が外へ逃げ、骨盤が横を向いている
前脚側へ体重が集まると、後ろ脚が外へ開き、骨盤も一緒に回りやすくなります。見た目だけ骨盤を正面へ戻そうとすると、腰を強くねじることがあります。
後ろ脚は、膝のお皿と足の甲が床を向く範囲で後方へ伸ばします。後ろ脚の付け根から脚が長くなるイメージを持ちます。
それでも骨盤が傾く場合は、前脚側のお尻を高く支えます。骨盤を力で正面へ固定するより、道具で高さを調整するほうが呼吸を続けやすくなります。
原因4:上半身を起こすために腰を反っている
胸を起こそうとして肋骨が前へ開くと、後ろ脚の股関節ではなく、腰の反りで姿勢をつくりやすくなります。
手を床、ヨガブロック、椅子の座面などに置き、上半身の重さを支えます。みぞおちを前へ突き出さず、恥骨とおへその距離を長く保つイメージで、頭頂まで背骨を伸ばします。
上半身を前へ倒す場合も、床へ近づくことを目標にしません。腰を丸めて沈むより、股関節から体を前へ長く伸ばし、呼吸できる高さで止まります。
原因5:ストレッチだけで股関節を整えようとしている
鳩のポーズでお尻の外側が伸びると、股関節が整ったように感じるかもしれません。しかし、ランニングでは柔軟性だけでなく、股関節と体幹で着地を支える力も必要です。
2024年の初心者ランナー325人を対象にした研究では、理学療法士の指導による股関節・体幹の運動プログラムを行った群は、静的ストレッチを行った対照群より、下肢のランニング障害の発生が少ないという結果でした。
この研究は鳩のポーズを調べたものではありませんが、「伸ばすだけ」で終わらず、ブリッジ、片脚立ち、スクワットなどで支える力も育てることの大切さを示しています。
セルフチェック:膝ではなく股関節で受け止められている?
- 前脚の膝に鋭い痛みやねじれる感じがないか
- 前脚のかかとを前へ出しすぎていないか
- 前脚側のお尻が床から大きく浮いていないか
- 後ろ脚の膝と足の甲が外へ向いていないか
- 骨盤を正面へ向けるために腰をねじっていないか
- 肋骨を前へ突き出して腰を反っていないか
- 肩をすくめず、3呼吸続けられるか
- 左右で、膝の感覚や骨盤の高さに違いがあるか
左右差は、悪いことではありません。かかとの位置や支えの高さを左右で変えても大丈夫です。
膝を守る鳩のポーズ 3ステップ
- 四つ這いから前脚を入れる
右膝を右手首の近くへ運びます。右足は左の鼠径部へ近づけ、膝に痛みがない位置へ置きます。 - 後ろ脚を伸ばす
左脚を少しずつ後ろへ滑らせます。左膝と足の甲がおおむね床を向く位置にします。両手で床を押し、急に骨盤を下ろしません。 - 浮いたお尻を支えて呼吸する
右のお尻の下へブロックやクッションを置きます。腰を反りすぎず、頭頂まで背骨を長くして3〜5呼吸します。

反対側も同じように行います。左右で同じ支えの高さにする必要はありません。
膝が痛い人は、仰向けの「4の字」へ変更する
鳩のポーズで前脚の膝が痛む場合は、痛みを我慢して続けず、仰向けの4の字ストレッチへ変更します。
- 仰向けになり、両膝を立てます。
- 右足首を左ももの上に置き、右膝は無理に手で押しません。
- 左ももの裏を両手で持ち、脚を胸へ近づけます。
- 右のお尻に穏やかな伸びを感じる位置で3〜5呼吸します。
この方法でも膝に痛みが出る場合は中止してください。
走る前と走った後、どう使う?
走る前は、深い鳩のポーズで長く止まるより、四つ這いから浅く入り、1〜2呼吸で戻る動きを左右2〜3回行います。その後に、股関節回し、ランジ、片脚立ちなど動きのある準備へつなげます。
走った後は、ブロックやクッションで骨盤を支え、左右3〜5呼吸ずつ行います。痛い場所を強く伸ばすのではなく、左右の呼吸のしやすさ、骨盤の高さ、前脚の膝の感覚を観察します。
訓練された女性長距離ランナー12人を調べた研究では、静的ストレッチで柔軟性は高まりましたが、ランニングエコノミーや持久パフォーマンスには差がありませんでした。鳩のポーズは「走力を直接上げる方法」ではなく、その日の体の状態を確認し、運動後に落ち着く時間として使いましょう。
痛みがあるときの注意点
前脚の膝、鼠径部、股関節の奥、腰に鋭い痛みが出たら、すぐに中止してください。しびれ、脚へ広がる痛み、引っかかり感がある場合も無理に続けません。
股関節や膝の手術後、人工関節、変形性関節症、半月板や靱帯の損傷がある人は、自己判断で深いポーズを行わず、主治医や理学療法士へ確認してください。
痛みが長引く場合は、柔軟性の問題と決めつけず、医療機関へ相談しましょう。
まとめ:鳩のポーズは、床に近づく競争ではない
鳩のポーズで大切なのは、見本と同じ形をつくることではありません。
- 前脚のかかとは、膝が痛まない位置まで鼠径部へ近づける
- 浮いたお尻の下へブロックやクッションを置く
- 後ろ脚をまっすぐ後方へ伸ばし、腰だけをねじらない
- 上半身を手で支え、腰を反らずに呼吸する
- ストレッチだけでなく、股関節と体幹を支える運動も行う
お尻が浮くことも、左右で形が違うことも失敗ではありません。今の股関節が動ける範囲を教えてくれる情報です。
床に体を合わせるのではなく、ブロックやクッションで床を自分へ近づけてください。膝に痛みがなく、呼吸できる高さが、今日のあなたに合う鳩のポーズです。
シリーズ記事はこちら
- 第1回:ランナーにヨガが役立つ理由
- 第2回:ローランジで股関節前側を整える
- 第3回:ダウンドッグで背中が丸くなるランナーへ
- 第4回:戦士のポーズ2で膝が内側へ入るランナーへ
- 第5回:木のポーズで片脚バランスを整える
- 第6回:三角のポーズで股関節と胸郭をつなぐ
- 第7回:橋のポーズでもも裏がつる原因
参考文献
- Zając B, et al. Do Highly Trained Mountain Runners Differ from Recreational Active Non-Runners on Range of Motion and Strength in the Hip and Ankle as Well as Postural Control? 2023.
- Leppänen M, et al. Hip and core exercise programme prevents running-related overuse injuries in adult novice recreational runners. 2024.
- Mojock CD, et al. The effects of static stretching on running economy and endurance performance in female distance runners during treadmill running. 2011.


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